1.妥当性検証の概要
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農林水産省生産局知財課の「平成20年度登録品種の標本・DNA保存等委託事業のうちDNA品種識別技術の妥当性確認事業」として、当学会が小豆および小豆あん品種識別マニュアルの妥当性を検証した。
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2.妥当性の内容
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2.1 妥当性検証の対象物
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・品種識別マニュアル
北海道立中央農業試験場 竹内氏作成 H20.6.30版
・検査する基準小豆の提供元
北海道立十勝農業試験場 小豆 8品種
・検査する市販品小豆
一般種苗店より購入 2品種
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2.2 小豆の品種純度検査
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代表的な2品種に対して、1つの品種を100粒混合した中に他品種の混在があるかチェックしたが、他品種のマーカーは検出されなかった。
また、1粒検査でも、10粒×3社=30粒検査したが、他品種のマーカーは検出されなかった。
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2.3 品種識別の検証
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検証は、表1の採取したサンプルを、表2のSSRマーカーで品種識別検査をおこなった。
検査機関は公募で募集し、ISO9001を取得している民間3社へ依頼した。
表1 採取したサンプル
品種 | 検査粒数 | 品種 | 検査粒数 |
基準小豆 |
エリモショウズ | 10 | きたろまん | 5 |
サホロショウズ | 5 | アカネダイナゴン | 5 |
しゅまり | 5 | ほくと大納言 | 5 |
きたのおとめ | 10 | とよみ大納言 | 5 |
市販の小豆 |
サホロショウズ | 10 | きたのおとめ | 10 |
表2 SSRマーカー絶対値テーブル
品種名 |
SSRマーカー(増幅断片長bp.) |
CEDG 008 |
CEDG 024 |
CEDG 015 |
CEDG 029 |
CEDG 007 |
CEDG 035 |
CEDG 021 |
CEDG 011 |
CEDG 041 |
エリモショウズ |
120 |
141 |
213 |
185 |
130 |
160 |
173 |
152 |
116 |
サホロショウズ |
116 |
141 |
213 |
157 |
130 |
160 |
175 |
152 |
116 |
しゅまり |
120 |
141 |
213 |
179 |
130 |
160 |
165 |
152 |
116 |
きたのおとめ |
118 |
141 |
213 |
185 |
130 |
160 |
151 |
152 |
116 |
きたろまん |
120 |
141 |
209 |
159 |
130 |
160 |
173 |
152 |
116 |
ホッカイシロショウズ |
110 |
141 |
251 |
185 |
128 |
158 |
173 |
166 |
112 |
きたほたる |
120 |
141 |
213 |
191 |
128 |
158 |
169 |
152 |
118 |
アカネダイナゴン |
110 |
141 |
249 |
185 |
130 |
158 |
173 |
166 |
112 |
ほくと大納言 |
110 |
141 |
249 |
185 |
128 |
160 |
175 |
152 |
116 |
とよみ大納言 |
120 |
141 |
213 |
195 |
130 |
158 |
173 |
166 |
116 |
ときあかり |
120 |
141 |
213 |
185 |
130 |
160 |
173 |
166 |
114 |
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3.検証の結果
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1) | 測定は絶対値測定でおこない各社のデータにバラツキがでていた。
原因は、各社で検査機器が異なるなど、検査環境が同一でなかったためと思われ、図1に示すようにバラツキの幅は±1程度であった。
図1 バラツキの幅
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2) | 各社間のデータに差異があるが、個々の社のデータを見ると、社内バラツキがない。1品種の3粒を測定した1マーカーの例を表3に示す。
表3 測定値
社名 |
1粒目 |
2粒目 |
3粒目 |
A社 |
121 |
121 |
121 |
B社 |
119 |
119 |
119 |
C社 |
120 |
120 |
120 |
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4.評価
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妥当性の評価は、一般市場でDNA鑑定を利用しても耐えうるか否かの観点から評価した。
そのために、基準株としての小豆の評価と、品種判別マニュアルの評価およびマーカーの評価を表4の評価表に示す。
表4 評価表
基準株 |
今回採取した小豆は他品種の混入がなく非常に品質の高い株であるため、鑑定の基準株としても問題がないと思える。 |
マニュアル |
マニュアルの改善が必要である。
・トラブルシューティングなどが無く、研究者でない人材でも使用可能なマニュアルとなっていない。(学会の品種識別マニュアルの目次を参考とする)
・品種判別の基準表(page12)に誤りがある。
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マーカー
認証率
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認証率はマーカー測定値のバラツキ幅:±1までを正解値として算出した。
絶対値測定での認証率:約32.7%
相対値測定での認証率:95%
相対値測定とは、基準品種DNAと被検体とを一緒に測定し、その差分で異同を評価する方式で、この方式は同時測定するため、検査環境に影響しないという利点がある。
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妥当性総合
評価
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相対値測定では高い認証率が確保できるが、絶対値測定では、検査環境が個々にことなるため、現在の状況では現実的でない。 |
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5.今後の改善策
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1) | マニュアルの標準化
品種判別マニュアルには親切なマニュアルや不親切なマニュアルがあるため、ISOのマニュアル作成基準を参考として標準化する。
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2) | 実験条件
マーカーを開発した実験環境と、検査をする実験環境が違う。また、検査会社間でも実験環境が異なるなど、現状では同じ条件で検査を実施させることは不可能である。そのため、同一の検査条件を得るためには、基準品種DNAと被検体DNAを一緒に測定、あるいは並行に測定し、相対値で品種判別させる。こうすることで、検査条件の違いを解決することができる。
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3) | 品種識別マーカーと実験マニュアルの品質保証
品種識別マーカーと実験マニュアルの品質はそれぞれ独立に保証する。マーカーは実験手法に関係なく、品種識別能力について保証し、実験マニュアルは、マーカーの検出手法について保証しなくてはならい。
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6.今後の指針
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今回、妥当性確認事業を実施した結果、DNA鑑定は既に実施されている成分分析検査などの既存検査手法に比べ、決めなくてはならない課題が多くある。そのため、DNA鑑定における方向性を表5に今後の指針を表す。
表5 今後の指針
項番 | 項目 | 内容 |
1 |
基準株のデータ・ベース化 |
基準株の保管および分譲窓口を管理公開する。 |
2 |
高信頼性マーカーの開発 |
今後、マーカーの信頼性を向上するためには、塩基配列のゲノムを基本としたマーカー開発が望ましい。
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3 |
ゲノム解析検査 |
塩基配列でDNA鑑定をおこなう。
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